「箱庭的 AUDIO STYLE」 が小型スピーカーを推奨する理由

スピーカーは最も影響力が大きく目立つ存在のため、一番予算を割きたくなるアイテム。しかし、箱庭的ピュアオーディオの薦め”AUDIO STYLE”で推奨している、小型、超小型スピーカーの話になると少し話が変わってきます。

DALI MENUET
DALI MENUET レビュー

工業生産されるスピーカーの多くは、一般的に、同一設計、素材、部品、製造工程を使う中で、サイズの違いによって多用途向けのラインナップを揃えることが通例。同一メーカーの同じブランドラインであれば、最小機から最大機まで部品と素材の品質はほぼ同じ。そして、サイズが大きくなるにつれて価格は高額になります。逆に云えば小型スピーカーになる程「同じ品質のまま」安価になりますので、ラインナップの都合上、お買い得感にもっとも優れているのは、最小サイズもしくは下から2番目のスピーカーになるケースが少なくありません。

一般的に小型スピーカーよりも、より大きなスピーカーの方が音質は良い・・・と思われがちですけれど、スピーカーは実際にはサイズによる得手不得手の差が大きく、また、音楽再生においてリスナーが日常的に選択する音量の中央値と部屋のサイズによって、本来望ましいスピーカーのサイズは変わります

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中型、大型スピーカーのメリットとデメリット

フロア型の中型~大型スピーカーは、大音量を入れても破綻しませんし、大きくリアルな音響を、ゆとりをもって再生することが可能になります。特に100Hz以下の低域方向はサイズとともに充実し、それが音楽表現の余裕や低域空間再現力となって、リスナーに実体感とスケールの大きさを伴う音の波の快楽を感じさせてくれます。その反面、平均75dBを下回る家庭内の超小音量~小音量再生では音がこもり易く、どうしてもスピーカーの箱から音が貼り付いて出てくるように聞こえてしまいがちです。

これらの弱点は、ルームアコースティックスに配慮したオーディオ専用ルームに於けるセッティングの追い込みや、より高品位なハイエンドオーディオ機器との接続次第で、ある程度の解決は可能です。とは云え相対的に大きなスピーカーで理想的な音質に近づけるためには、つまるところ、より困難を伴う試行錯誤と共に、非常にお金がかかるのが現実です。可能性の上限は高いが諸々の敷居も高くなる。それが中〜大型フロア型スピーカーです。

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photo credit: B&W 800 Series Column Speaker via photopin (license)

特にユニットの重さに起因する時間軸の遅れを避ける為には、それぞれのスピーカーに見合う、よりドライブ能力の高い物量投入型、或いは高品位なアンプが必要になります。当然望ましい音質を得るのに必要なアンプの価格も飛躍的に上がります。

音響的には、発音面の面積とキャビネットの絶対的な質量が大きいため、本来の音源に存在しないスピーカの素材的個性(固有振動)の強さと複雑さに起因する色付けも、スピーカーが大きくなることでより強力になります。

また大型のスピーカーは帯域別に複数のユニットを搭載することも多く、発音位置がトゥイーターから離れてバラバラになるため、位相面での音場的な正確さからはそれだけ遠のきます。(本則としては点音源が望ましい)音源のバラツキはリスナー側がより離れて聴くことである程度相殺されます。しかしユニット毎に微妙に異なる音質、発音のタイミング、クロスオーバー領域の位相ズレの個体差、左右差を完全に整えるのは困難なため、帯域毎の音質が異なってしまい、音源に本来存在しない過剰な正相、逆相音が混ざり合うことで強い個性が生まれがちです。

※複雑さと混沌が生み出す色付けが魅力的な個性として好ましく聴こえたり、時に情報量が多く高音質になったとリスナーに錯覚させますが、これらは本質的に元の音楽信号に含まれる本来の原音を歪めたりマスキングしている事の裏返しでもあります。そして、その様にして過剰に演出創造された音質を、魅力的な個性としてリスナーに感じさせることこそが、ある意味ハイエンドオーディオメーカーの腕の見せ所にもなっています。但しこうやって演出・創造された独自の個性を伴う音響空間は、冷静にみれば原音忠実再生でもモニターサウンドでもない、ある種のトリックスターに拠るマジックと云えなくもありません。

小型、超小型スピーカーのメリットとデメリット

高さ30cm未満の小型スピーカーや超小型スピーカーが得意とするのは、小音量再生時のリニアリティと、点音源に近づく事で物理的な位相ずれが小さくなり、定位感や音場感の精度に優れる点です。

録音は極々小さなピンポイントマイクによって行われていることを忘れてはいけません。またユニットが小さくなることで中~低域方向の時間軸の遅れが少なくなり、レスポンスが良好になります。下から上までの発音タイミングのズレが少なくなるため、リズムや抑揚等、音楽表現の機微がより伝わりやすくなります。概ね100Hz以下の低域の量感と50Hz以下の超低域の再生能力(音量と余裕)については諦めざるを得ませんが、低域の量感が薄いお陰でドスドスとした重低音があまり響かず、住環境の周辺に音による迷惑をかけ辛くなるのは、小型スピーカーの大きなメリットとして見逃せません。

小型~超小型スピーカーの大半は、2WAY型と呼ばれる低域担当ウーファーと高域担当トゥイーターのユニットが2つのみ、もしくはユニット一つのフルレンジ型、フルレンジ型の中央に高域担当トゥイーターユニットをはめ込んだ同軸型と呼ばれるものが主流です。

QUAD L-ite2 スピーカー

スピーカーの構造上、中〜高域側の再生を担当するトゥイーターユニットに箱の容積は必要無く、音響的に見ると箱の存在による余計な反射と回析がむしろ邪魔になります。B&W「Bowers&Wilkins」など、高域ユニットがキャビネットの外に取り付けられ、ちょんまげ型になっているデザインなどは、高域の位相的な乱れをなるべく避けることが目的です。このような理由から、高域方向はキャビネットがより小さいモデルの方が、むしろ澄んだ綺麗な音がするケースが多くなります。※ステレオ、マルチサラウンドの指向性及び音場定位は、基本的に高域側の再現性によって明確化されます。

また、小型スピーカーはサラウンド用途や小音量再生での使用を前提に設計されているため、日本の一般的な住環境下で、超小音量~せいぜいたまに中音量を出す程度であれば、大型のスピーカーより明瞭で、スピーカーの存在を感じさせない広い音場空間を出せるようチューニングされていることも少なくありません。接続される想定アンプ類も、エントリークラスやAVアンプなど、相対的に低出力で低価格な機器が中心になりますで、ローエンドの機器と組み合わせる際にドライブ力不足で音がスカスカになりにくいのもメリットになります。

小型スピーカー弱点である低域は、同一設計のサブウーファーを追加(可能であれば2台)することで、セッティングが難しくなるものの、中大型スピーカーと比べても遜色ない低域方向の再現性と、小型スピーカーの持つ小音量時の明瞭感と高域方向の位相の整った3次元的な広がりを両立することも可能です。

現実的な妥協点・・・トールボーイ型スピーカーの存在

小型スピーカーでは低域方向の周波数レンジが物足りず、しかし大型のフロア型スピーカーを入れるに十分なスペースと天井高、即ちエアボリュームが足りない室内環境・・・日本の一般的なリビングルームではどうでしょうか?あくまで小~中音量再生までの再生音量が基準となる話ではありますが、この場合も、音質のバランス、余裕、音場の広さ、小音量でのリニアリティ等々のバランスを考慮すると、少し大きめのブックシェルフスピーカー(高さ30cm前後~40cm程度)か、もしくはトールボーイ型と呼ばれる縦型スピーカーが実用的な妥協点になります。※管理人の場合も、16畳のリビングに、メインシステムとしてトールボーイ型スピーカーを置いています。

トールボーイ型は、意外に高価な小型スピーカー専用スピーカースタンドが不要こともあり、システムトータルの導入コストが抑えられます。

多くのトールボーイ型スピーカーの設計は、小型スピーカーをベースに、中~低域を担当するユニットを分割及び複数搭載することで、小型スピーカーでは難しい150Hz台以下の再現性を上げる方向に設計されています。その結果、音場ステージの広がりに余裕が生まれ、中~低域方向へのボリュームと解像感を確保出来るようになります。中~低域担当のユニットは、多くの場合、小型スピーカーでも使われる16cm以下の比較的小さなウーファーユニットが使われているため、本格的な大型ユニットほどのドライブ力をアンプに要求せず、小型スピーカーに準じる低域のパルシブなレスポンス、フットワークが得られる点もメリットになります。

トールボーイ型を含め、一つのスピーカーに多くのユニットを積んでいるスピーカーの場合、ユニットそれぞれに担当する帯域を低中高と分ける3WAY、4WAYと呼ばれるタイプや、変則的に同相ユニットを複数持つことで、より大きなユニットに近い余裕を持たせているタイプなどがあります。

Vienna Acoustics T-2 Let's note PCオーディオ メインシステム

但しトールボーイ型スピーカーには弱点もあります。ユニットの数が縦に増えることで発音点が広がり、点音源ではなくなる為、音場に広がる音像の視覚的イメージが、小型スピーカーに比べて不自然になりやすいこと。また、ユニット毎の音質の偏差に加えて、クロスオーバー付近の音質が濁り易いこと。ユニットやネットワークの製造個体差に拠る周波数のバラつきにより、不自然な共鳴音や過剰な響き、逆位相成分による打ち消しなどが発生しやすいなどの問題点を内包しています。

多連装ユニットのスピーカーは、実製品の製造で理想的な精度を保つことが簡単ではありません。ユニット個体差や完成品に於けるステレオマッチングの許容誤差もメーカーやグレード毎に異なります。結果的に、音響的な乱れからくるカラーレーションを、音数の多さ、豊かさなど、良い意味でのキャラクターとの風体で誤魔化している面は否定できない様に感じます。ユニット毎のレスポンスタイミングが完全には揃わないため、どこかチグハグした印象を受ける製品もまた少なくありません。これは感覚的な部分なのですが、同一設計の小型スピーカー(2WAY 同軸型等)に比べ、トールボーイ型は不思議と音色が暗く、あまり積極的に歌わない(≒音楽がつまらない)傾向が散見されるのも注意してほしいポイントです。

もちろんこれらの傾向的な弱点はあくまでも製品に拠るとしか云えないのですけれど、ユニットが多くなるにつれ、比例して原音再生(本来ソースに含まれている音楽を過不足なく再生する)から遠のく余計な要素が増えてしまう点は、頭の片隅に置いておいて損はないでしょう。結果的に元々の音楽をストレートに愉しんでいるのか?スピーカーが創出した後付けの創造音、共鳴音を愉しんでいるのか?判らなくなってしまわないためにも。

高音質ヘッドホン×ヘッドホンアンプ環境と、スピーカー据え置き型オーディオの違い

px-MacBook BOSE ヘッドホン

日本の制約の多い住環境で音楽を愉しむために、同じ高音質でも、スピーカー中心の据え置きオーディオでは無く、ヘッドホンやイヤホン環境に投資されるスタイルが近年は若年層中心に増え、衰退するピュアオーディオに比べ遙かに大きなムーブメントになりました。グレード的に安価な小型スピーカーの据え置きオーディオと、上質なヘッドホンオーディオと何れが高音質?かと問われたら、同じくらいの投資額だった場合、誤解を恐れずに云えば、より微細に音が明瞭に聞き取りやすい高音質ヘッドホン×ヘッドホンアンプの方が、音響的な意味での高解像度、ハイエンドサウンドに近づけるのも事実です。

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対して据え置き型オーディオシステムのメリットは、部屋の何処に居ても音楽が聞こえるため、視聴位置や姿勢を殆ど束縛されない点です。そして忘れてはいけないのが、発音源と耳が遠いため、より多くの音楽を長い間聴き続けても耳が疲れにくく、良識的な音量以下で聞き続ける限り、一日中音楽を浴びていても耳を痛めにくい点です。また音楽とは本来、耳だけで無く体全体で空間を通して空気の揺らぎを感じるもの。生演奏に近い広い空間と距離感も含めた体を包み込む立体音響感覚は、スピーカーオーディオでしか得られない世界です。管理人としては、先ずなによりも第1に耳を痛めないために、そしてより本来の音楽、生演奏の持つリアルな音の体感、伝達感覚に近づけるために、なるべく据え置き型のスピーカーオーディオをメインもしくは併用しつつ、音楽再生を愉しんで貰えたらと考えています。

~まとめ~

望ましい音質が得られやすいスピーカーのサイズは、本来リスナーが要求する音量と部屋のサイズを掛け合わせたバランスが取れる妥協点になります。広々としたオーディオ専用の防音室を用意できる場合や、郊外の一戸建てで心おきなく大音量を享受できる恵まれた住環境の方には、(特にメインシステムとして)より大きなスピーカーの世界をお薦めします。

audiopro Image12 スピーカー
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しかし、ごくごく狭い日本の住環境と制約の多い音量を鑑みた場合には、スピーカーに要求される本来望ましいサイズが、多くの方が考えているよりも実はずっと小さいものです。リビングや書斎、ベッドルームなどのサブシステムで、主に小音量(50~70dB)~中音量(70~85dB/最大90dB未満)で周囲に気兼ねなく音楽を愉しむ用途では、小型スピーカーの方が生活空間への占有率も小さく、セッティングの自由度や、音質向上に必要なコスト面からも遥かに有利になります。※括弧内はリスニングポイントでのスマホ測定中央値。

こういった理由から、当サイトでは、一般的な制約のある日本の狭い住環境、リビングオーディオに相性の良いスピーカーとは何?を突き詰めた結果、小型スピーカー、超小型スピーカー、デスクトップにも置ける手の平サイズのスピーカーを中心に据えつつ、主に音楽愛好家向けに、高音質ながらも生活の伴侶として過不足ないオーディオシステムとして長年推奨して来ました。

小さな住環境に大きなスピーカーを入れた結果、生活面でも音質的にも共に窮屈な思いをした上、思うような結果を得られず、オーディオや音楽再生そのものがストレスになる・・・と云ったありがちな結果を辿るよりは、音響工学的にも筋の通ったスマートな妥協点を最初から受け入れる事で、無理の無い高音質を最短距離で手に入れつつ、音楽そのものに没頭出来る様にしましょう。以上が、スピーカー選びについて「箱庭的AUDIO STYLE」からの提案でございます。

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