今回は、2000年代半ばに国内でも販売されていた米国のハイオエンドケーブルメーカーNORDOSTの電源ケーブル「SHIVA」を紹介してみます。ご覧の通り中の銀色の単線導体と特殊なスパイラル構造が透けて見えるトランスルーセント被覆で、美しくも妖しげな雰囲気を醸し出す薄紫色の電源ケーブルです。導体径は電源用途としてはかなり細めとなる銀メッキ6NOFC単線18AWG×3本。(本物であれば)米国で設計製造されたMade in USAの電源ケーブルです。
Nordost SHIVAは日本の国内代理店であるエレクトリ経由でも販売されていたのですが、導体が完全単線ということもあって当時ゴタゴタしていたPSE的にグレーゾーンだったのか、目立たないまま消えてしまった印象があります。国内の希望小売価格は1m/43050円。2m/52500円+12600円/mで現地価格と比べても割と良心的。ちなみに本国アメリカでは結構長い間販売されていたように思います。
Nordostの電源ケーブルラインナップ
NORDOSTの電源ケーブルは、一番安価なモデルから順に、Wyrewizard MAGUS(3芯無メッキ)、Purple Flare(2芯無メッキ)、Ax Angel(スタジオ用)、Blue Heaven(ここから上は銀メッキ)、SHIVA、Red Dawn LS、Vishnu、Brahma、Heimdall2、Frey2、Tyr2、Valhalla2、Odin/Odin2となっていて、特にValhallaは数十万、ODINに至っては1本150~200万円もする電源ケーブルとしてハイエンドオーディオ界隈では定番ケーブルとなっています。
この中でもWyrewizard MAGUS、SHIVA、Vishunu、Brahmaは現行ラインからは外れてディスコンになってしまいましたが、MAGUS Wyrewizardはプロスタジオ用のAx Angelと同一の非メッキ65 strand 99.9999% OFC 3芯ですので、実質Ax AngelがMagusの後継モデルになりそう。Shiva、Vishunu、Brahmaの名を継ぐ直接的な後継モデルは残念ながら存在しませんが、Heimdall2、Frey2が設計的に相当しそうな感じ。
NORDOST SHIVAはまだオーディオケーブルが今ほど高価で無かった古い時代の製品ですので、本国価格的には現行のBlue HeavenとRed Dawnの中間に位置します。とは云え、Shiva、Vishnu、Brahmaは当時のハイエンドケーブルである初代Valhalla($2500)のトランスルーセント単線中空スパイラル構造と素材をベースに、そのまま細径化及び単線の本数を減らした形の下位モデルになり、音質的にもこの当時の古いハイエンドケーブルの系統上にあると思われます。直接比較はしたことはありませんが、現行のRed DawnやBlue Heavenとは異なるタイプの音色を持つ電源ケーブルでは無いかと。そして現在ではFray2ですら旧Valhallaと似たようなお値段ですのでインフレが凄いことに・・・orz
NORDOST SHIVAの音質レビュー
さて、ここからはいつもの音質レビューです。RCAケーブルのBlue HeavenにRed Dawn、スピーカーケーブルのflatline GoldやWyrewizardを使ってきた経験から、いかにもノードストらしい上下にフラット且つストレートに広がる三次元的立体音場とピンポイント定位を想像していたのですが、実際にはそれらとはかな~り毛色の異なるタイプの音質でした。中域中心にやや張りだし感のあるカマボコ状の音場で、低域はかなり軽め。中域~高域は艶が乗り、解像度はそこそこありますがRCAケーブルのBlue HeavenやRed Dawnのような影のある落ち着きや神経質な印象は無く、極めて聴き易く、聴き疲れしにくい耳当たりの良い明るい音色です。定位もソリッド且つピンポイントと云うよりは、ふくよかな響きが加味された中庸で普通サイズの定位感ですが、タイトでは無いため、若干の輪郭強調感で定位感を出している印象。
NORDOST Red Dawn”レッドドーン”flatline RCAケーブルのレビユーです♪
NORDOST Blue HeavenとRed Dawnの音質比較♪
音質的にはなかなかに個性的なのですけれども、NORDOST SHIVAが何より魅力的なのは音楽性の高さにあると思います。明るく艶っぽく、かなり個性的な美音で聴かせるタイプですが、同時に弾むようなリズム感と中域の動的でポジティブな表現力が支配的で、聴いていて素直に音楽が楽しくなるタイプのサウンドが得られます。音楽性の低いつまらない音質の機器でもSHIVAを繋げるだけで割と息を吹き返しますし、元々音楽性の高い機器では更に蠱惑的且つ茶目っ気のある演出感が加わり、聴き手を楽しませるという意味では管理人の手持ちの電源ケーブルの中でも最右翼。演出的な意味で、極めて表現力に長けているケーブルだと思います。この細さの割に機器に対する支配力はかなり高く、良く云えば美音系、悪く云うとイロモノ系といった感じです…。 なんだろう、喩えるならお色気美少女?…みたいな(謎)
弱点は音場展開のカマボコ的なデフォルメ感が強く、低域が特に薄くなりますので、アンプ等の大電流を流す機器には向きません。そちらはより太めor導体数が多くなるVishunu、Brahma、Valhallaと、それぞれ機器の性質に応じて使い分けるべきと云うことでしょう・・・といってもこの北欧神話シリーズは上位の電源ケーブルでも総じて低域が出ないとは云われていますが。その中でも導体が細いSHIVAの音はもっとも薄くなる筈ですので、基本的用途としてはCDプレーヤーやDAC、ネットワークオーディオプレーヤー、DVD/Blu-rayプレーヤーに向いているタイプの電源ケーブルになると思います。
とは云え、ここはやはり常に時代の1歩2歩先のクオリティで勝負してきたノードスト。SHIVAもオーディオ的な品質面で現代の同クラス以下の電源ケーブルと比べて質的に劣るようなことは全く無く、空気絶縁のノンシールド構造らしく開放的な音場に加え、細部もキラキラとした粒子情報量がそれなりに出ていますし、音質、音楽性、システムへの支配力の強さなど、総合力が高く価格相応以上のものがあると思います。
Marinco 8215CT (Wattgate 5266i?) と Wattgate 320i
但し、なにぶん設計が古く、ACプラグに安価な医療用真鍮無メッキ電源プラグMarinco 8215CTとWattgate 320iIECインレットプラグが使われている点については残念ながら音質的なボトルネックになっているようにも感じます。この電源プラグの特徴でもある、明るい、やや粗い、低域が出ない、音場がナローレンジでフラットに出ないといった部分が、ノードストが開発した中空単線導体と合わさることで前述のような欠点として現れてしまい、足を引っ張っているようにも聴こえるのですよね。。。導体はせっかく高級感のある上品な美音系ですのに、導体の個性と云うよりもプラグの弱点がそのままもろに出てしまっているような・・・。
ですから、この電源プラグをより高品位且つ導体の音色にマッチした個性的な付帯音が乗る美音系の製品にリプレイスすることで、たぶん更にイロモ・・・蠱惑的なハイエンド系のサウンドにメタモルフォーゼするのでは無いかと踏んでいます。などと云いつつ、結局手持ちの2本ともオリジナルの個性を尊重してMarinco 8215CT/Wattgate 320iのままで使い続けていたりするのですけれども・・・(^^)ゝ
※Marinco 8215CTとWattgate 320iは元々中身は同じで、Marinco 8215をベースにクライオ処理の有無等でオーディオグレード化したものがWattgate 320iです。SHIVAに採用されているものがWattgate 5266iの可能性もありますが、インレット側のWattgate 320iと違ってWattgateの文字がどこにも無いので便宜上Marinco 8215CTとしておきます。
IECインレットプラグを交換してメガネ端子ケーブル化しました
NordostのSHIVAのIECインレット側はWattgateの真鍮無メッキICインレット端子Wattgate 320iですが、C7メガネ型IECインレットのMARANTZ CDR630で使用するためにWattgate 320iを外し、代わりにWattgateの新型メガネ型電源プラグWattgate340 EVO Standardを取り付けました。現在、新型のWattgate製品については残念ながら日本では正規輸入経由での市販がされておりませんので、箱庭オーディオ管理人は海外通販経由で調達しています。
SHIVAは元々が単線ですので端末処理も必要なく、プラグを取り替えるだけで組み立ては簡単です。ネジが従来は±ドライバだったのが、ミニ六角タイプになってますのでそこは注意が必要です。重量はWattgate 320iが56g、新しいWattgate 340 EVOが61g。そしてこれは想定外だったのですが、この新型WATTGATEのC7メガネタイプ、勘合が異様に固くて中々インレットに挿さりません。本気で奥まで挿し込んだら、機器を壊さないまでも今度は外れなくなりそうでしたので、適当に半挿しのままで使っています(滝汗)
音質レビューです。プラグの規格が異なるため直接対決した訳ではなく、同一システム内での経験則から来る推測ですけれども、感覚的に旧型IECインレットWattgate 320iに比べて一回り音場が広がり洗練された印象の音質になりました。音場が手前に張り出しつつ浮ついた感じが、後方展開に落ち着いて尚かつ3D的になります。音像指向からより音場指向の現代的サウンドになりました。これはオス側の「Wattgate 5266 Male Plug EVO / Wattgate 330 Male Plug EVO Series」にもかなり期待出来そうな印象。
今回は予算の都合からシリーズで最も安価な黄銅無メッキタイプ「EVO Standard Series Clear」を選んだのですけれど、マランツCDR630の弱点を解消するためには出来ればメッキタイプ「EVO 370 RH/AU Series」を選んだ方がもっと良くなりそうな感じがします。無メッキではやはり真鍮的と云いますか、音の立ち上げと立ち下がりに粗めのザックリしたところがあって若干高級感を損なっているかなと。逆に云えばワイルド感を出したければ無メッキの方が良さそう。⇒ロジウムそれとも金メッキ?オーディオ端子のメッキと音質について考察してみる。 ただ、音質の良いC7メガネインレットプラグはFURUTECHから色々と出ていますし、正直メガネ端子タイプに限ってはWattgate 340 EVOの追加購入は無いかなと・・・。
オス側プラグMarinco 8215CTもWattgate 330 EVO Seriesに当然交換した方が良いのですけれど、ここも予算の都合上で現状はSHIVAに標準装備されているMarinco 8215CT(Wattgate 5266i)をそのまま使っています。このプラグも快活さや明るさの面ではそれほど悪い選択肢ではないと思いますが、低域が沈み込まない弱点がありますし、CDR630の場合は敢えてイロモノ系の電源プラグで思いっきりメッキのキャラクターを載せてあげた方が満足度がより上がりそうですので。
~まとめ~
自称ローエンダー管理人が所有する二十数本の電源ケーブル(定価5万円以下)の中では、最もハイエンドケーブルらしい個性的な音色と支配力を持つ電源ケーブルの一つがNORDOSTのSHIVAです。正統的でまともな高音質を目指す場合には正直全く必要のないタイプの電源ケーブルですが、システムの何処かにSHIVAを1本組み込む事で音楽性・・・動的な躍動感をスパイスとして加えつつ、音場空間にある種のソフィスティケイトされた美音と纏まりを生み出すことも出来ます。ここで云う音楽性とは、録音された演奏そのものに秘められる演奏者が表現した素の音楽性と云うよりは、ノードストの設計者が感じた音楽性・・・強力なレタッチをかけた色眼鏡によって再構築される世界観ではあるのですけれども、それを受け入れられるかどうかは、使い手の好みと使い方次第なのかも知れません。