【オーディオの文化と教養と成金趣味】
投資額と満足度|ハイエンドその1|ハイエンドその2|成金趣味
ちょっとばかり刺激的なタイトルを付けてみました(滝汗)。箱庭的ピュアオーディオシステムの薦め「AUDIO STYLE」は主にローエンドから普及価格帯のオーディオ機器に纏わる考察ブログとして綴られていて、ハイエンドオーディオと呼ばれる高価なオーディオ機器について詳しく触れる事はあまりありません。今日はその理由について述べたいと思うのですが、端的に云えば、管理人が一部の例外を除いてハイエンドオーディオへの興味が薄く、またハイエンド界隈特有の価値観を、正直あまり好意的には思っていないからです。
「アンチハイエンド」と云っても、個別のハイエンド製品について必ずしも嫌いという意味ではありません。値段の上下に関わらず機材の好む好まざるは千差万別で、高級機でも個人的に感銘を受け、惹かれる製品は少なからずあります。ただ、コンシューマー向けハイエンドオーディオに纏わる付加価値に偏重したブランドビジネスと、それらを含めて好むハイエンダー双方からそこはかとなく滲み出る違和感、悪く云えば物欲優位的な優越感、ぼったくりビジネスを暗に肯定する金銭感覚、拝金主義を纏ったえもいわれぬ雰囲気が嫌いと云った方が良いかも知れません。
※ハイエンドオーディオの定義については諸論ありますが、ここでは各メーカーのフラッグシップを指す狭義の意味ではなく、庶民感覚で相対的な高級機を指す、大雑把に単品100万円~システム総額で高級車を超える民生用オーディオ機器や、それらを想定して作られた「社会通念から逸脱したレベル」で高価な周辺機器、アクセサリー等について広く指すものとします。
僕がどうしてそう考えるに至ったのだろう?と思い返してみたのですが、オーディオマニアの世界に首を突っ込んで間もない10代のときに触れた機器やアクセサリ等々から、オーディオ機器の出音・・・特に音楽性の部分で、価格と音質が必ずしも比例しない逆転現象を色々と経験したのがやはり大きいと思っています。初心者の頃は概ねスペックと価格、物量次第で音質が決まると信じていたので面食らいましたが、紙面評価や絢爛豪華な見た目に惑わされずに大小高低様々な機器に耳を澄ませ音楽を体で感じたとき、システムの豪華さと音楽の伝達力が比例しない、逆相関するケースすらままあることを目の当たりにし、このカテゴリに蔓延る認知の歪みに戦慄すると共に、オーディオ弄りで価格と出音の品位があまり正比例しない事に気付いたことで、むしろ趣味としての魅力を感じられるようになったのが始まりになった気がします。
もしピュアオーディオへの課金具合と音質・・・特に音楽性に強い相関関係があったら、僕は音楽愛好家、学習者として機材としての民生用ピュアオーディオにここまで興味を持たなかっただろうと思います。何せオーディオに手を出し始めたのは中学生です。出音の品位を課金の多寡で解決できるのでしたら、中流育ちの小市民が最初から勝負になる筈もありません。
90年代初め、オーディオ初心者で大してお金も知識も無く、しかし音楽へのプライドについては甚だ生意気な中高生のお馬鹿な質問に対し、長々とお付き合い下さり、お説教をしたくれたショップ店主や店員が何人もいらっしゃいました。そういった方々が商売気では無く本音として、自社取扱の製品から本当に良い機種を見分ける方法や、作り手側の本音としても、富裕層のニーズやビジネス戦略が絡むが故に必ずしも高級機やハイエンドモデルが優れている訳では無いこと、シンプルな造りのローエンド機がむしろ音質は良かったりする事などを色々と教えて貰いました。
ケーブルやアクセサリについても、レンジが広くオーディオ的に洗練された上位モデルほど、音楽の本質が遠のき、ある意味では悪くなる例を教えくれ、商売抜きに敢えて安価なモデルの組み合わせを薦めてくれた輸入代理店の社長さんがいたり、若輩者の立場で色々と学びながら、現代ハイエンドオーディオを支えるある種の物欲拝金主義や付加価値ビジネスとは異なる目線から、音楽への本音でオーディオの魅力を色々と教えていただき自分は本当に恵まれていたと思っています。当時はそこそこのピュアオーディオが中流一般層にも薄く広く普及していて、現代のように、一握りの富裕層を籠絡しつつ付加価値でぼったくらなければ食い繋げない世知辛い時代では未だありませんでした。
かなりディープな音楽愛好家や音源収集家、演奏家でもオーディオ機器にあまりこだわりの無い方は大勢いますが、なぜ僕がこの界隈に違和感を感じながらも、態々ニッチでオカルトじみたピュアオーディオに手を出し、ライフワークの趣味にまで至ったのか?それはたぶん、音楽性を起点に音楽をより良い音で聴きたいとの立脚点がぶれないことで、前述のような経験から、若く早い段階で課金と出音に驚くほど相関関係が無く、即ち、オーディオの再生音の質は、機材そのものポテンシャル以上に、使い手の音楽を見通す本質的な感性、値段に囚われない機材選びのセンス、組み合わせとの妙と細部に至る使いこなしのセンスで決まる事を、このジャンルの遥か先輩方に基礎感覚としてレクチャーしていただいた事が大きいと思っています。
その後、20代~30代前半の頃は代理店のデモやオーディオショウ、色々な方々のオーディオシステムと触れ合い、それこそ僕のシステムと比べて課金単位が一桁多いハイエンドシステムにも拘わらず、個人の感覚として出音の品位が明後日に感じられるケースや、逆に当時の僕のシステムよりゼロが一桁少ないのに、音楽的にはむしろ核心を捉えた初心者システムを聴かされて我に返って反省したりなどの体験を積み重ね、更に前述の考えを深めるに至りました。
実際の所、オーディオの音質をステップアップするには、必要経費としての資金がある程度までは必要ですし、ミドルレンジまでは、大雑把ではありますけれどコストとクオリティの間に概ね相関性があります(※但しこの業界には地雷や例外も多々ありますが・・・) 。ただ、それ以上の重課金が必要な泥沼世界に躊躇無く足を踏み入れるハイエンダーの方々を端から見ていると、音質の良さについての意味するところの感覚が僕とは本質的に噛み合わなかったり、音楽の中から聴き取れている音の旋律、感じている重要な部分の認識点が、どうやら「音質に拘るオーディオ耳」と「音楽に拘る音楽耳」ではかなり異なる印象があります。
自分は一応両者の視点から音を聴けるタイプだと思うのですが、個人的に強い違和感を感じる仮想現実的で不自然な音質のバリエーションを、ある方々は正統派の高音質であると違和感無く捉えていたりもします。またそれぞれの機材への課金具合と、音楽そのものへの感受性や考察力、聴く絶対量の逆相関的関係の多さに気付かされたりする事も多く、結果として音以外の付加価値が値段に占める割合が大きく、価格と内実の乖離が激しいハイエンドオーディオや、それらの優位性を信じて止まないハイエンダー達への信頼を徐々に失っていったのが今現在の本音です。
以上のような経験から、個人的に、ピュアオーディオ趣味を虚飾を排した音楽再生の為の手段として捉えるなら、使い手の音楽の理解度とセンス次第で課金に対する下克上が容易に可能であると思っています。音楽性の部分では特に。このギャップの面白さにオーディオに触れた早い段階で気が付いた結果、機材を通した金銭的満足感や顕示欲に本音があり、お金を掛ける程に高まるハイエンド優越主義的な価値観に対し、あくまで音楽ファンとしての立場から、音楽再生のツールとしては、本末転倒して必要以上にお金を掛けた方がむしろ負けと云うある意味真逆の価値観が、管理人の中に構築されるに至った訳で御座います。
追記 : 管理人がこのような意見を出すと、ハイエンドの優位性を信じて止まない方々から、「大切なのは音質で金額は結果論で関係ない!」との趣旨の反論をされることが度々あります。この意見が文字通りの真意でしたらこちらも全面的に同意なのです。そもそも僕の主張はそのまま「大切なのは音質で金額は関係ない」点を説明しているに過ぎません。しかしこういった反論をされる方々の多くは、往々にして普及価格帯や低価格の良品には見向きもせず、音楽の為に価格のバイアスを排した上で、価格に依存しないアプローチによるオーディオシステムを実際に組もうとはされません。さしてお金のかからないチューニングや、一般人にも手が届く世界での試行錯誤については何故かこちらと話が噛み合わない。音楽のために本当に良いものを見抜いた上で、価格に拘らずに試行錯誤し取り入れる感性と柔軟性がある方はハイエンダーにも勿論いらっしゃいますが、そういった方は残念ながら少数派に感じます。
こうなると、真相としてはハイエンド至上主義的な優位性を否定されたくないのが本音だからこそ、金でプライドを買うような成金趣味への揶揄が気に食わない事への裏返しとして「音と値段は結果論で関係ない」との、論理的にブーメランとも思える詭弁を弄しているのではないかとの疑いが首をもたげてきます。なぜなら資金力に比例してより優れたものが手に入る事を疑わない拝金思想が根底に無いのであれば、高級指向バイアスへの批判に対しある意味で共感することはあっても、的外れな反論で返す必要性はどう見ても無い筈です。。。本当に音楽の為だけにオーディオに取り組んでいるのなら、価格と実体が乖離した例は枚挙にいとまが無く、批判されても仕方ないほど酷いケースを幾らも知らないはずはありません。そこに一向に気付けないとしたら、それこそシンプルに音楽を聴く耳、素養を持っていないからです。はっきり云わせてもらえば、幾らハイエンドオーディオに課金したところで、音楽に共鳴する深い部分の感性をお金で買うことは決して出来ません。
音楽の共有のために~管理人がハイエンドオーディオを好まない理由 その2に続く
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コメント一覧 (4件)
>yotappeさん。
(コメント移動です)
音楽への素養が浅く、ハイエンドオーディオがお好きな方達に訊いてみた印象では、彼らは自己実現のツールとしてハイエンドオーディオに取り組んでいらっしゃる印象でした。彼らにとっての音楽は、あくまでオーディオというツールで音を弄る為の素材という風に見えます。自我より上に音楽へのリスペクトを置いていないという事ですね。ですから、出音に癖があったりくすんでいたり不自然なものであっても、一つの味付けでありキャラクターの好みとして受け入れられるのは、その辺りの価値観の違いから来るのだと感じました。
元の音楽を再生時もなるべく「良い音」で聴きたい。「良い音」の基準は生演奏で聴いた時のあの表現と感覚という共通認識が皆で出来れば良いのですが、ハイエンド界隈でその主張をすると大抵は訝しがられて受け入れて貰えません。生演奏での質感をあまりご存じない人や、音楽そのものに深い興味を持っていない方の占める割合が想像以上に多く、音源ソースや演奏に執着することよりも、機材に投資する方に遥かに熱心な人種が集まるからだと思います。彼らが求めているのは現実の音楽ではなくて、現実では得られない機械によって創作された蠱惑的な美音や電気音響のダイナミズム、自然な聴感を越えた定位や解像度なのだと思いました。
pastel_piano 様
成る程、私は綺麗なバイオリン、ピアノ等の生の音に近い音でオーディオを聴きたいと思っています。
以前、久し振りにクラシック 生演奏を聴きに行ったのですが、舞台の下で聴いたため音が悪かったです。家でステレオで聴いた方がよっぽど良い音でした。
2014年にハイエンド販売店に試聴しに行きました。そのCDプレーヤーの音質は、パソコンのヘッドホーン端子より遥かに劣っていました。それでも、店の人は昔のタンノイとかハーベスのスピーカーを置いていて、私はこのスピーカーはもう30年も50年も前に終わった音質だと思いましたが、自分の感想を胸にぐっと収めて帰宅しました。
ネットでハイエンド オーディオマニアを見てますと、とっかえひっかえ高額の機器を売り買いしていますが無駄な事だと思っています。いつまで経っても、癖のある機器を選んでいては生演奏に近くはならないのになと言うのが私の感想ですが。癖のある音は、直ぐに嫌になるに決まっています。
ゴールドムンド 笑ってしまいますね。電源トランスなり、電源を強化すれば音質は一般に良くなるのですが、それにしても 詐欺師みたいな事で私には出来ません。
勉強になる記事有難う御座いました。
生演奏はホールの音質と座席の位置に大きく左右されますので色々難しいですよね。とは云え、オーディオ独特のクリアネスでは生演奏の悪い席やホールの音に表面的に勝っていても、音楽としての音の色彩やグラデーション、自然さ、表現のダイレクト感については、自分の場合は未だ未だ生演奏には圧倒的にかなわないと思うことが多いです。
TANNOYやHARBETHは鳴らし方次第だと思います。簡単にぼやけた酷い音にもなりますし、上手く鳴らせれば、音楽愛好家にとって一生向き合うべき懐の深さを持っているとも云えます。今時のシャープでクリアな音質を追求したり、それこそ機材ヲタクがコロコロと買い換えするような玩具では無いと思っています。特に、ピアノはともかくHARBETHで鳴らす弦楽器は上手く鳴らせれば格別のものがあり、個人的には高く評価しております。
買い換えについては、買い換え自体が目的になってしまっているケースが散見されますね。一つの機器とじっくり向き合うことをせず、年に何台も、累計で数十台、数百台と買い換えている方がハイエンダー界隈には少なからずいます。良く言えば中古市場を彼らが支えている訳ですけれども、完全に目的と手段が入れ替わってしまっていて、沢山の機材を経験することと、音楽性や良い音を知っているかは、実のところ全然関係ないのだなと思ってしまいました。
ハイエンドオーディオってのは例えるならば。
持つことを楽しむためのオーディオ
似たようなのに
・性能的に街で走れないフェラーリ。眺めるのが吉!
・林業しないけど植林して風光明媚を楽しむ地主
・魚を大量に獲るなら漁船。ゆえに高級クルーザーで魚を釣るのは獲ることが目的じゃない。
・趣味かつ晩のおかずなら突堤で釣りするのが十分
・うまいコーヒーを入れるのに山に入って湧水名水を汲みにゆくのが正道。
かかる経費はガソリン代と体力。
例えるならキャブタイヤのケーブルか?
別荘に深い井戸を掘って高いろ過装置を建設するのがハイエンド。
ゴールドムンドはあれだな。
・どうせフェラーリを街中でぶっ飛ばせば逮捕されるから
制限時速守ってゆっくり走るなら軽四のエンジンでいいやって…・