【audio-technicaの高品質インシュレーター】
AT6099|AT6098|生産終了
昨今の世界情勢の煽りを受け、今年に入り怒濤の勢いで値上げラッシュが続いているオーディオ業界。あまりにも値上げブランド/品目が多すぎて、とてもブログ記事で紹介しきれない状況なのですけれど、遂に恐れていたことが…orz
低価格ながらも効果が大きく、長年にわたりオーディオマニアの間で絶大な支持を獲てきたaudio-technica製の各インシュレーターが、この夏に全て生産完了になってしまいました。特に今回の衝撃は、製品の値上げとしてでは無く、一斉に「生産完了」という現実が僕達の前に突きつけられたことです。
販売終了製品 AT6099|AT6098|AT6089CK|AT6294
日本国内でオーディオ用インシュレーターと云えば真っ先に思いつくのがaudio-technica。1セット実売2~3000円台程度のリーズナブルな価格ながら、オーディオ専門店のみならず、日本全国にある家電量販店の店頭、時にはスーパーの家電売り場等でも見かけるくらい、最も入手が容易且つ、ロングランヒットを続けていた製品群でした。推測ですが、その累計販売数は他社製インシュレーターの数倍どころか数百倍以上に上るでしょう。趣味としてのオーディオを志して久しいオーディオマニアから、片足を突っ込んだ程度の皆様まで幅広く浸透していて、audio-technicaのインシュレーターを一度も使ったことの無いオーディオマニアは、モグリと云えるくらいの定番製品でした。
今回生産完了(生産終了)となったインシュレーターは以下の製品です。
オーディオテクニカが長年自ら負っていた使命
今回販売終了になった一連のインシュレーター群は、削り出し精度、表面加工、メッキ、ソルボセイン、ハネナイト、コルク等々の軟質素材との組み合わせたハイブリッド構造など、設定価格以上の製品精度と、ヒアリングで追い込まれであろう明快で魅力的な音質を備えていて、数倍の価格帯にあるハイエンドインシュレーターと肩を並べても全く引けを取らない音質の変化量を持っていました。零細オーディオアクセサリメーカーと比べ、量産効果で価格を下げられたのもあると思いますが、入門からミドルクラスのオーディオマニアに長年支持され、管理人自身も大半のモデルを所有しつつ現役でも使っています。品質よりも価格で製品を判断する人々は、オーディオテクニカ製品の価値を見縊って使いたがらないという意味でも、暗にオーディオマニアの踏み絵となる製品でもありました。
こういったインシュレーター等のオーディオアクセサリーに実際に意味があるのか?といった問いは、オーディオ界隈周辺で常に議論となり燻り続けている議題です。けれども、明確な性質を持つオーディオテクニカのインシュレーターが何処でも手に入り、誰にでも手が届く価格設定が為されていたことは、未だ半信半疑のオーディオマニア予備軍の入門層が、小さな出費でオーディオアクセサリーの効果を知る事が出来る最高の入口であり、深遠に足を踏み入れる切っ掛けとなっていました。また逆に音質的な違いが判らない人達にとっても、チャレンジした上で無駄な出費を最小限に抑えることが出来る良心的な価格設定だったからこそ、長年、入門者から上級者まで、多くのオーディオマニアにこれらのインシュレーターが定番製品として受け入れられていたのだろうと思います。
値上げでは済まされなかったのか?
実はこれまでにもオーディオテクニカ製インシュレーターは何度か値上げがされていて、2000年代初頭から比べると、特にAT6099につては1セット2000円台半ばから最近の4000円台と、実売価格がかなり値上がりした印象がありました。それでも相対的には今でも他社製インシュレーターに比べてまだまだリーズナブルな部類。特に個人的に音質が一番好きなAT6089CKについては、未だに8ヶ入りで実売2000円前後とお値打ちだったこともあり、少し前にディスコンの情報が入った時に買い足しています。
金属価格の高騰に円安が重なり、製造原価の上昇を現在の価格と販売数では賄えないのかも知れませんが、正直、再度の値上げをしてでもずっと販売を継続して欲しかったというのが箱庭的”AUDIO STYLE”管理人としての本音です。また、オーディオテクニカのインシュレーターは国内ではずっと定番品ですが、海外ではそこまで知られていませんし販売しているケースもあまり見かけません。販路を世界市場に拡販することで、これまで通りに製造販売を続ける事が出来なかったのかと、非常に残念に思います。
ハイエンド路線に舵を切ったオーディオテクニカ
敢えて低価格な路線を歩むことで、各オーディオアクセサリーの効果を布教し、オーディオマニアの裾野を広げるために、長年多大な貢献をして来た筈のオーディオテクニカですが、近年はいきなりミドルクラスを飛び越えて、新シリーズとして「FLAUT」という名の10万円を超える驚くような価格のスピーカーケーブル、信号ケーブル等を次々にリリースし始め、AT-SC700 AT-SC1000 AT-IC1000 AT-IC700 AT-AC700等々、明らかにハイエンド指向に向かって舵を切り始めています。
正直ここまでお高くなってしまうと、バジェットHi-Fi指向を公言する僕などは、お値段を見た時点で興味を失ってしまいます。こういった「原価がそこまで高くなくても」超高価格販売が出来る、いわゆる高付加価値製品を、日本を代表する非ハイエンド系のオーディオメーカーが発売するようになるとは、時代の変化に対する前向きな対応なのか?格差社会の生み出した歪みなのか? 適正価値を提供することで信用を積み上げてきたプライドは無いのか?と、かなり複雑な気持ちになります。今後、長年染みついたaudio-technicaの低価格志向のブランドイメージが、はたして突然の高価格路線で払拭できるのか?個人的にはそれなりに難しい茨の道を歩むことになると思いますが…( 3△3 ).。o。
OTAI AUDIOさんの動画を拝聴した印象としては、audio-technicaらしく予想通りの高解像度ワイドレンジ系ですね。15:25~Wireworld Mini Eclipse 8|18:20~audio-technica AT-SC1000
新製品のインシュレーター AT6900BR AT6901BR AT6901ST AT6902BR AT6902ST
長年ロングランを続けていた旧型インシュレーターが一斉に販売終了となった代わりに、先行して新設計されたハイブリッドインシュレーターとスパイク、スパイク受けが新たに発売されました。そしてこちらについてもかなり価格が上がっています。
新製品を見ると、ハイブリッドインシュレーターAT6900BRはΦ25mm。Φ30mmのAT6099より直径が5mm小さいものの、これまでのAT6098/AT6089に比べると大きくなりました。構造的にはAT6098を大きくしたものですので、AT6099の代用になるかと問われたら、またこれは新たな違う音質のインシュレーターと見做す方が良いと思います。
スパイクAT6901STとスパイク受けAT6902STの直径はφ25mmですが、重ねた際の厚みは17mmに設計されています。スパイク受けの厚みは旧型AT6294と同じく7.5mmですが、単一素材でサイズが旧φ39mm⇒新φ25mmと小くなったぶん割高感は否めません。但し今回から真鍮(末尾BR)だけで無く、ステンレス素材(末尾ST)が選べる点は選択肢が広がって良いことだと思います。
しかし問題は上下スパイクとの組み合わせ含め、新型インシュレーターでの音質がどうなるかです。そもそも、インシュレーターの個性は単純に良し悪しや価格で語れる話では無く、あくまでそれぞれのシステム、機材と合うか合わないか?ですので、新旧をそのまま置き換える事で、必ずしも音質が良くなる訳では無い点は特に注意が必要です。また、管理人が好む小型~超小型ブックシェルフスピーカーの場合、AT6900BRの高さ18mm×Φ25mmのサイズ感では腰高でやや目立ちすぎ、旧AT6089(Φ18mm)やAT6098(Φ20mm)のサイズ感が見た目にも邪魔にならずスマートでした。当然、音質的にも大きければ良くなると云うものではありません。そういった面も含めて、新しい製品を出すだけで無く、既存の旧型モデルを値上げしてでも全て併売して欲しかったのが正直な思いです。
AT6099 AT6098 AT6089CK AT6294を今後入手するには
既に販売終了を掲げているところが目立ち始めましたが、2022年7月現時点では、未だ一部の販売店に市中在庫が残っているのが探すと確認できます。秋以降はヤフオク!やメルカリなどのオークションや中古オーディオ販売店を探すことになると思いますが、如何せんこれまでに販売された数が桁違いでしょうから、中古であれば、しばらく流通が無くなることは考えにくいかなと。
audio-technicaの代わりになるインシュレーターメーカーは?
audio-technica製インシュレーターの存在価値は何よりも入門者やローエンダーにも手の出しやすい低価格帯だったことと、入手性の良さにありますけれど、全て販売終了になった今、代わりのブランドがあるかと問われると、ぱっと思いつくのは「AET」「オヤイデ」「J1 project」のインシュレーターくらいでしょうか。これら日本の3つのブランドは、1セット実売5000円以下の低価格帯にもそれなりに使えるインシュレーターを揃えていて、特に真鍮やアルミニウムベースのAET製と特殊樹脂ベースのJ1 projectの製品は、一通りの製品を試した上で僕自身いろいろな箇所で多用しています。
ただ、汎用性の高さと効果/コストパフォーマンスの面ではaudio-technicaの旧製品はやはり群を抜いていて、対する「AET」「オヤイデ」「J1 project」のインシュレーターは音質的にもよりオーディオマニア向けに特化した、ある意味で使い手を選ぶ製品になると思います。これらの製品は、販路についても専門的なオーディオ売り場のある一部の家電量販店か、専業のオーディオ専門店に限られますので、audio-technica製品ほど入手性が良くありません。その点も含めて、今回のaudio-technicaのインシュレーター一斉販売完了は、只でさえお寒いオーディオの門戸を更に狭めてしまい、ユーザーにとっても業界にとっても大きな損失になってしまうのでは無いかと懸念しています。