今日紹介するのは先日発売されたジョージア(グルジア)のピアニスト、カティア ブニアティシヴィリのデビューアルバム「リスト・アルバム」です。ブニアティシヴィリは1987年生まれの若干24才。才能は早くから見出されていたものの、トビリシの地方音楽学校で勉強していた彼女は、モスクワ音楽院やサンクトペテルブルク音楽院など所謂ロシアのエリートコース出身ではありません。
しかし2003年のホロヴィッツ・コンクールで特別賞、2008年のルービンシュタイン国際ピアノコンクールで3位に入賞しています。(先日チャイコフスキーコンクールで優勝したダニイル・トリフォノフは、今年2011年のルービンシュタイン・コンクールでも優勝しています。) この経歴でメジャーレーベルから鳴り物入りでデビューという事ですから、凄い実力があるのか、単なるルックスからの商業的評価か、はたしてどちらなのか興味津々・・・。
また、ブニアティシヴィリは昨年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンで来日リサイタルを開いてますので、既に生で聴かれた方も少しながらいらっしゃると思います。今年もラ・フォル・ジュルネでの来日予定でしたが、震災の影響で音楽祭自体がひっくり返ってしまいましたので・・・子細は皆さんご存じの通りです。
リスト生誕200年ということで、デビューアルバムはオール リスト プログラム。箱ピュア管理人が購入したのは例によって安くて美味しい輸入盤ですけれど、初回限定のプロモーションDVD付き紙ジャケパッケージ♪ 録音はまあまあ優秀。SONYの最近ってこんなに優れた音質なのでしょうか?ソニークラシックスにありがちなSBM圧縮の粉をまぶしみたいな聴感S/Nの悪い音では無く、メジャーレーベルらしい安定した音質とナチュラルで密度の高い音色です。何度か再生してたらやっぱりSBMっぽい音が気になってきたので修正。あと輸入盤+補正入れてます。
まずは一曲目の愛の夢 第3番から。リストの曲の中では比較的難易度が低く、おそらく最も多くのピアノ学習者に演奏されている親しみやすい曲です。・・・女流ピアニストということで、必要以上にお花畑風味が強調されることの多い曲ですが、なんだか凄く上質な曲想に聞こえます。また、そのまま弾くとつい荒削りになりがちな旋律を、抑制が効いた大人びた雰囲気でシックにまとめてくるところはただ者では無いかも・・・。
ロ短調のピアノソナタ…個人的に実はこの曲がかなり苦手ですけれど、ブニアティシヴィリは意味不明になりがちなこの難曲を最後まで飽きさせずに聴かせるところが凄い。。。むしろ、これだけ洞察に優れたリストのピアノソナタはここ最近では聴いた事が無いような気がします。リーズ・ドゥ・ラ・サールとヴァネッサ・ベネッリ・モーゼルに続き萌えジャケシリーズ第三弾って感じで軽く紹介していこうと思ったのですが、とてもそんな安易な雰囲気じゃありませんでした。恐るべき集中力で強烈な演奏をする人です。彼女はギドン・クレーメルやマルタ・アルゲリッチが積極的にサポートしているみたいですが、もう輝かしい将来が約束されていそうな雰囲気ですね。
輸入盤の初回盤に特典で付いてきたプロモーションビデオのDVD。NTSCリージョン0ですので日本のDVDプレーヤーで問題無く再生できます。5分弱の短いプロモですが、彼女の世界観が上手く映像表現されていてなかなか怖いです(謎)。YouTubeのライブ演奏(公開終了しました)はデビューアルバムよりも更に集中力が高く凄いです。
ブニアティシヴィリはとある機会にマルタ・アルゲリッチに憧れていると語っていたみたいですが、そう言われれば演奏には色々な点からアルゲリッチの影響が感じられるような気がします。特にロ短調のソナタはアルゲリッチの若き日の演奏と比較されそう・・・などと想いつつアルゲリッチのリスト・ピアノソナタを久々引っ張り出して聴いてみたのですが、う~んやっぱり音楽としての魅力度はアルゲリッチ盤に未だ一日の長がありそう、、、一夜限りの悦楽的なパッションがぬるぬる沸き上がる感じ、聴いていて楽しいですからね♪
レコード会社曰く「アルゲリッチの再来と言われる才能」・・・まぁありがちなセールスキャッチコピーですし、アルゲリッチが現役で生きてるのにそりゃないよ~と訝りつつも、ブニアティシヴィリの大人びた辛口の解釈、鋭い激情、敢えてアタックを歪ませたフォルテの打楽器的スタッカート、畳みかけるようなパッセージ、何より音楽の陰の部分、ダークサイドを執拗に濃厚に表現してくるあたり、アルゲリッチの紡ぎ出す音楽と多くの点で重なる部分があると思います。ただアルゲリッチ本人よりも、もしかすると冷静といいますか、よりリストの音楽の内面や暗黒面をえぐりつつ激情を表現し、それでも実は全体の構成を細部までクールに計算している・・・そんな透徹した理性をも感じさせるところがまた新時代のピアニストって感じで憎いです。
2016年にN響パーヴォ・ヤルヴィ競演のクラシック音楽館で放送されたシューマンのピアノコンチェルト。露出度高いドレスに体の動き等々、色々とセクシーすぎるとのことでクラシックの垣根を越えて話題に。なんというか最近のカティアは自身の美貌を意識してアピールし過ぎでは無いかと思っていたり(苦笑)
ブニアティシヴィリと同じくジョージア(グルジア)出身の優れた女流ピアニストといえば、私は昔アルゲリッチと良く比較されたEliso Virsaladze”エリソ・ヴィルサラーゼ”を真っ先に挙げたくなります。実際生で聴くとアルゲリッチとヴィルサラーゼの演奏はかなり違いましたし、pastel_piano的にはヴィルサラーゼ先生の方が実は上手いと思っていたりしますけれども、ブニアティシヴィリはもしかするとこの2人を超える逸材なのかも知れません。今時のピアニストらしく既に技巧面ではこの2人をも凌駕していますので…。とにかく、美人だから!という理由でフォローするのは彼女のこの実力を前にしては些細な切欠にしかならないでしょう。そうですね、ノワール・チョコレートとチャチャが織りなすハーモニー、そんな気分にさせられる辛口のピアニズムは、多くの大人な紳士達・・・に支持されそうな気配です♪
↓はソロデビューに先行発売されていたギドン・クレーメル及びGiedre Dirvanauskaite”ギードゥレ・ディ ルヴァナウスカイテ”と競演した室内楽盤、「偉大な芸術家の思い出」。ピアノが絡むチャイコフスキーの曲で個人的に一番好きなのですが、管理人はCDでは未だこれといった演奏に出会えていません。Kathia Buniatishviliの音色は、私がこの曲に望んでいる憂いと懐かしき日々を表現できるのか・・・やや構えてしまいますけれど、また違った意味での陰影豊かな大人の「偉大な芸術家の思い出」が聴けそうな気がします。注:後日(2012年)、このトリオでの同曲の来日公演@サントリーホールがクラシック倶楽部で放映されましたが、どちらかと云うとクレーメルのヴァイオリンの凄さが一際際立っている印象でした。
↓こちらは翌年(2012年)に録音されたショパンアルバム。ピアノソロ数曲とバーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団のコンチェルト第2番のカップリング。ジャケットがセクシーですね(^^;)。こちらもやっぱり音色が独特。情熱が深く沈み込むが如き黒く濃厚なタッチで、特にソナタ第2番の3楽章「送葬行進曲」はしっかりしたタッチとダイナミズムがありながらメランコリックでドキッとさせられます。やっぱり彼女が纏う雰囲気はいつも夜想的で昼間聴くべき演奏では無いですね(滝汗)。こちらは珍しいCD-Extra仕様で音楽トラック以外に5分のショートフィルムが収録されています。