CDアルバムのプレス国や年代、リマスタに因る看過出来ない音質の違いについて【前編】

どうして僕がフィジカルメディアに執着するのか?たぶんきっと見えてくる話
前編|後編

クラシック音楽マニアのご多分に漏れず、輸入盤の再販廉価BOXには色々と手を出してきましたけれども、あまりの安さに毎回脊髄反射で飛びつく割に、再販箱にはおかしなリマスタやノーマライズが施されているケースが一定割合であり、その音質が耳に合わない場合、折角買った箱の中身が全滅となってしまうケースが屡々起こるのがCDコレクタ的にはかな~り辛かったりします。

classical box cd set

そんなとき、どうしても手元に置きたいアルバムについては、まともな音質と思われるオリジナル中古盤をネット通販等探し、一枚一枚のアルバムを国内外から取り寄せる事になるのですけれど、バラですので個別に探すのが結構大変だったりするのと、商品代は$1や£1以下などタダみたいなケースも多いのに、国際郵便で合計送料の方が高く付いたりしてしまう事もしばしば。関東在住ですので中古CDの取扱のある店頭も周囲に沢山ありますが、健康上の理由であまりで歩き回れない上に、日本国内の店舗では当然中古国内盤の取扱が多く、また変にお値段がお高かったりする事もあり、世界中のインターネット通販やオークションで安価に探せるようになってからは中古CD店にも昔ほど足繁く通わなくなってしまいました。

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国内外のプレス品質と音質の違い

あくまで僕基準の話ではあるのですが、クラシック音楽(ジャズでも大体同じだと思いますが)CDの場合、基本的にオリジナル初回版とそれに準じるプレス(マスタースタンパーが無変更のまま、当時再生産された範囲)が、最も高音質である事が多いように思います。次いで米国プレス(但し欧州盤と殆ど変わらないことも多い)。特に80年代から90年代前半にプレスされた初期の西独製輸入盤で、通常は透明な円盤の中央部に輪状の凹凸が無く、全体が銀色で覆われているタイプの製造品があるのですが、上品で響きの多い独特の音色がして、それが在りし日の欧州の空気感を感じさせてくれ、細かく音質に拘ってしまうと、この当時の西ドイツ盤でなくては駄目だったりするのです。アナログレコードはともかく、デジタルのCDでもこういった違いがあるのは不思議ですよね。※但しこの初期ヨーロッパプレスはデリケートで、日本のような高温多湿環境に弱く、品質と耐久性には少なからず問題があります。

Ofra Harnoy cello sonats

クラシック音源の輸入盤では多くの場合Made in the EUと書かれていますけれども、廉価盤BOXでは中国でプレスしている?ものもあるらしく、その場合の品質には問題があるケースも耳にしたりします。ただ、中華プレスの場合は敢えて製造国が書かれていないケースが多いのか、あまり意識の上にはのぼらないというか、中華プレスのCDって持っていたっけ?なんて気がするのですよね。手元の輸入盤を見た感じ、箱物も含めて大半はManufactured / Made in the EUとかMade in Germanyと書かれている事が多いように思いますし、今のところ持っていても気が付いていないので、ある意味僕って幸せなのかも(滝汗)

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昔から国内盤・・・日本プレスは欧州盤やUS盤に比べてポリカーボネート樹脂に厚みがあるがあるのですが、どういう訳か独特の音がして、総じて直接音は元気なのですけれど、対して間接音の響きが薄く、中域の前に張り出したレンジの狭い音がするのが特徴になると思います。良く言えばメリハリと輪郭がカッチリしたはっきりした音ではあるのですが、あまり品の良い音では無いみたいな。特に海外盤との同一盤で比較すると顕著ですけれども、レーベル公式には認められていませんが、プレスマスターのデジタルデータそのものが日本市場向けにローカライズされていて、実際にはスタンパーの違いのみならず、薄いDRコンプやノーマライズが施されているケースが昔から横行しているのではと勘繰っています。バイナリ比較してしまえば判りますけれども。。。とは云え日本製だけあってCDプレスの耐久品質はめっぽう強く、保護層のポリカーボネート樹脂の品質や厚みもあるため、輸入盤に比べて傷に強く、高温多湿環境下での経年劣化に対しても非常に強い印象はあります。

欧州盤/US盤と日本盤のどちらが良いか?はかなり好みに拠る部分もあって、管理人が10代の頃はリズミカルで元気の良い音がする国内盤の音の方がむしろ好きで、当時はもっぱら国内盤の蒐集が中心だったりしました。それから沢山のクラシック音楽のCDを集めて音源を聴く間に、徐々に輸入盤至上主義者にメタモルフォーゼしたという経緯があったりします。80年代や90年代当時はCDに対してノスタルジックな感慨を持っていた訳ではありませんから、薄い輸入盤の脆弱な品質や残響の多いデリケートなサウンドが、ある意味、覇気が無くぼんやりしているようにも聴こえたのですね。。。以前にある方から聞いた話では、海外では逆に日本盤が高品質・高音質として持て囃されていて、高値で取引されているそうです。これは実際に海外のネット通販で日本盤の中古価格を見ると妙にお高かったりするので、海を越えてお互いに、舶来品に対する憧れ的な需要があるのかも知れません。

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欧州盤は90年代以降、プレス機が更新される毎にCDの見た目もごく普通になり、前述の初期のプレス機で生産された外盤独特の音色の個性が薄まり、徐々に日本盤と足して2で割ったような方向に変わっていきましたが、それでも輸入盤にはまだ一日の長があると云いますか、個性が薄れただけで、やはり相対的な音質では国内盤との格差がまだまだあるように感じます。日本の国内盤については当時から今に至っても、ブレずに一貫して独特の日本的な音質が維持されていて、特にSHM-CDなどの高音質を謳うプレスでは、さらにその日本盤特有の個性が強調されている印象で、今の僕にはもうこのクッキリしたメリハリの利いた音が良いとは思えなくなってしまいました。結果的に高価な国内限定プレスに興味が湧かず、安価な輸入盤で納得出来るので、ある意味で安上がりではあったりしますけれども(^-^;)

再販盤の高音質リマスタリングがもたらす影響

アルバムは最初は新譜の単品アルバムとしてそれなりの値が付けられて販売されますが、初期生産されたプレスが数年後(クラシック音楽は実際に売り切れるまでがかなり長い)にメーカー在庫切れから世界の流通在庫もそのうち途絶えて廃盤となり、その後は、あらためて再販される場合もありますが、往々にして同じ演奏家や指揮者の他のアルバムや、レーベル毎のシリーズ企画或いは作曲家別の企画盤としてまとめられ、廉価BOX化されて繰り返し再販される道を歩みます。そしてその度に目先の再販セールスの理由作りとして、意図的に「高音質リマスタリング」が謳われて音質改変が施されるケースがあります。

このリマスター盤がなかなかのくせ者で、触れ込み通りの高音質になるなら云う事は無いのですけれども、実際には録音時に存在しないデジタルデータを仮想的に再演算した上で、16ビット相当のCDに圧縮して折りたたむ事になります。リマスターはその企画で使われた機材の方式別に演算による癖が音に現れてしまい、その結果現れる変調・・・音質変化が気に入らない場合、リマスタされたアルバムはオリジナル盤よりもむしろ劣化して聴こえたり、余計な付帯音がして耳障りに聴こえてしまうことになります。

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売り手のマスタリングエンジニア側は高音質化しようとして施した技術にもかかわらず、聴き手に側には良くなったようには聴こえ無い人も居る訳ですから、とりあえず価値観の相違って話になる訳ですけれども、このリマスタ技術、圧縮技術が最初に登場したのが丁度1990年前後。以降のリマスタ再発盤は、80年代のデジタル録音初期のオリジナル盤に比べて総じて音質が変になり、ある意味で全滅してしまったと言って良いのではと思っています。クラシックのメジャーレーベルで言うと、DGやDECCAのOIBP”Original Image Bit Processing”、SONYのSBM、EMIのArt、VictorのK2などがこれに該当しますが、具体的には良く云えばダイナミックレンジが拡張されて音色がきめ細かくなる反面、SONY SBMやEMI ARTでは音の立ち上がりが丸くなり、響きが混濁して、ノイズの粉をまぶしたような煙たい音に聴こえたりします。或いはOIBPではクリアな反面、高域が硬質に伸張しすぎて歪んで耳に刺さるように聴こえたり。逆にVictor K2は一時期濃厚なアナログっぽいサウンドだったりしましたが、Victorレーベルは良くも悪くも音質のキャラクタに一貫性がないのでK2の音質傾向も何とも説明しづらいところがあります。

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90年代にこういった多ビット&圧縮技術が行われるようになって以降、その技術前提で元からハイビット録音されたものは割と大丈夫なのですけれども、80年代~90年代前半に14~18ビットで収録されたオリジナルデジタルマスターの場合、再演算を加えて仮想20ビット、24bit化した上で、CDの16ビット相当に折りたたんで圧縮したケースのリマスタ盤で、音が良くなったケースを僕は殆ど知りません。

グレン・グールド ゴールドベルク変奏曲

例えばCBS SONYの代表的なピアニストであるグレン・グールドの録音は、SBMでのリマスタが施されることで彼本来の演奏が持つ音色の鋭さと音楽的なリズム感が壊滅してしまい、SBMリマスタ盤のゴルトベルク変奏曲(2000円で再販された右上のグリーン)を初めて聴いた際に、大変なショックを受けたのを覚えています。その後、人気のゴルトベルクへ変奏曲についてはオリジナルアナログテープから再度起こすことで(中央ブラック)中途半端な90年代のSBMリマスタとは違った許容出来るレベルの高音質になりましたが、それでも左下の初期盤の音楽性には及びません。結果として、80年代に僕が入手出来ていなかったアルバムについては、当時の初期プレスを後々中古盤でかき集めることになる訳です。

internal録音とリマスター音源が内包する問題@Twitterログ4

閑話休題。これは映像でも同じで、2000年代以前にアナログ製作された映画やアニメが、リマスタされて再放送やBlu-ray企画化して再販売されているケースを見かけますが、多くの場合、階調が飛んだ不自然などぎつい色彩に輪郭強調、行方不明となった空気感や陰影など、リマスタした人の感性を疑うを通り越して、作る方も観る側も、そもそも映像芸術の機微を何も理解出来ていないのは?と思うような品質の映像が普通に流通、放送されていて愕然とします。一目瞭然で丸分かりの映像の違いですらこの体たらくなのに、いわんや更に基準が曖昧な音の世界で音質の違いを、好みでは無く良し悪しとして客観的に知覚出来る人間がどれだけいるのか?という話なのかも知れなくて、人間の感覚的な格差というのは僕が思っているより実際のところ相当に開きがあるのではないかしら?と疑ってみたり。

話を戻します。状態の良いアナログマスターテープが残っている場合に、アナログマスターから直接、80-90年代では不可能だった最新技術の多ビットデジタルでより高精度なA/D変換を施し、そのデジタルデータをベースにハイレゾ音源やDSD/SACD、16ビットに圧縮されたWAV/CD、或いは最近ではMQA-CDなどが作られる場合は良いのですが(注:あくまでまともな機材で優れたマスタリングエンジニアが手掛けている事が前提です)、こういった正常なプロセスを踏まえず、後に「偽レゾ」と呼ばれるような、元のデジタル録音の低ビットデジタルデータをリサンプリング技術によって仮想拡張する手法は、もう90年代当時から再発盤の高音質リマスタという名を借りて横行していて、この方法で作られたリマスタ盤は、余程スタジオでのリサンプリングと再編集が上手く入ったケースを除けば、初期盤にデータレベルで聴感上大きく劣ることになってしまいました。

カラヤン・ゴールド OIBPギュンター・ヘルマンス リマスタ盤

僕の手持ちでデジタルリサンプリングによる大規模リマスタでこれはこれでアリ♪って思えたのは、ヘルベルト・フォン・カラヤンが晩年にDGに残したデジタル録音を、89年のカラヤン亡き後、オリジナルのデジタル録音編集を手掛けたギュンター・ヘルマンス自身が、直ぐさま出来たばかりのOIBPシステムで再変換及び再編集をし、90年代初めに「カラヤン・ゴールド」として再販したシリーズくらいでしょうか。。。これはレコーディングを手掛けた当人が、80年代に行われた最初のオリジナル盤の製作からそれほど時を経ずに、もしカラヤンが生きていたらこう指示しただろうという前提で、当時のマスタリング技術では実現出来なかった部分を補完したというもので、よりカラヤン&ベルリンフィルらしくザックリした厚みのある音質に仕上がっています。

メインアーティスト:アンナ・トモワ=シントウ & ヘルガ・ミュラー=モリナーリ & ヴィンソン・コール & パータ・ブルチュラーゼ & ウィーン楽友協会合唱団 & ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 & ヘルベルト・フォン・カラヤン
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internalCDアルバムのプレス国や年代、再販リマスタに因る看過出来ない音質の違いについて【後編】に続く。

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