何を今更という感じですが、今日は1年ほど前に発売されたデノンのコンパクトオーディオシステム、PMA-CX3/DCD-CX3/SC-CX303について書いてみます。
そもそも、日本製オーディオ機器メーカーの代表格であり、音質は良くも悪くも日本人的そのものであり、長らく重厚長大路線を突き進んで来たはずのDENONがオーディオマニアの枠を超えて、音楽ファンを意識したこんなスタイリッシュで魅力的なデザインの小型システムを発売した事は素直に驚きを禁じ得ません。コンパクトな一辺30cmのレコード盤ジャケットサイズや薄型のディスクトレイなどは、古くからある英国LINNのシステムを彷彿とさせます。ぶっちゃけ、コンセプトが完全にLINNのオマージュっつーか、ぱく…以下自粛(汗)。
とは云え、PMA-CX3のリアルウッドをあしらったボリュームノブや、DCD-CX3の非常に滑らかでスムーズな動作のディスクトレイ、筐体の精度や剛性感の高さなど、もうこれはハイエンドそのものの質感です。少なくとも観た感じはライバルとなるであろうLINNの下位モデルよりも高級感があり、まさに音楽を愛する大人の為のコンポーネントという印象。とてもSACDプレーヤーとチューナー付きデジタルプリメインアンプ、ペア20万程度の価格で買えるシステムの外観には見えません。
スピーカーのSC-CX303は、クラシックの本場ヨーロッパのサウンドデザイナーと共同で開発とのことです。詳細は不明ですが音作りをある程度任せたのかしら?ちなみに最近自宅でDENONの倒立型コンパクトスピーカーSC-M53を使っているのですが、これは噂では英国Mission(ミッション)のデザイナーによるものらしいです。今回の試聴は推奨組み合わせであるSC-CX30のみ。以下はPMA-CX3/DCD-CX3/SC-CX303トータルでのレビューになります。
技術的な説明にはあまり興味がありませんので例によって割愛。メーカーサイトor店頭カタログ若しくはオーディオ雑誌等のレビューをご確認いただけると幸いです。一応、プリメインアンプのPMA-CX3はD級デジタルアンプでAM/FMチューナー内蔵。iPod及びレコードプレーヤー(MM/MC)にも接続対応。DCD-CX3はCD/SACDプレーヤーです。両方とも電源ケーブルは着脱可。基盤は奇麗ですが、電源部のトランスが両方ともこのクラスでは見たこと無いくらい小さくて萌え……( ³△³ ).。o
肝心の音質ですが、実は昨年初春、発売当初にショップで聴いた際にはあまりポジティブな感想を持てず、ブログに試聴記事を僅かしか書かなかった経緯があります。ただ、その当時試聴したのは店頭で用意していたJAZZの音源で、自分が普段の試聴に使っているクラシックのテストディスクやSACDではありませんでした。この当時の印象メモは、単に相変わらずDENONの音色、バンドがシャカシャカうるさい、つまんない、軽い、スピーカー駄目wみたいな感じの走り書きで、他所の噂でも割と辛口の批評が多く、所詮、物量面でも音質面でもずっとスケールの大きい、ONKYOのA-1VL/C-1VLの敵じゃない~とか思っていました。
しかし、発売後1年経過して、別の店頭でクラシックの音源で改めて試聴してみたところ、自分の中での評価が一変。まぁオーディオ機器は店頭環境でかなり音質が変わりますので、一ヶ所での試聴でその善し悪しを判断するのはかなり無理があるのですが、デノンのCXシリーズにとって本来ライバルであろう他社製の一体型レシーバーや、いくつかのコンパクトサイズのハイコンポ系ピュアオーディオモデルなどと同時試聴したところ、何だかんだ言ってもデノンCXシリーズの音質が実はトップクラスではないかという結論に達しました。
PMA-CX3/DCD-CX3/SC-CX303がまず他社の類似コンセプト製品と違う点は、CXシリーズは左右奥行きの音場感の表現がしっかり出来るところです。通常このクラス或いはそれ以下のコンパクトサイズオーディオというのは、「音像」描写は出来るのですが、「音場」の描写がすっぽりと欠けていることが多いのです。要するに間接音成分がスポイルされていて、クラシック音楽で重要となるホールトーンの再現が上手くできない。直接音の密度や定位、解像度(風味)では魅了するのですが、音楽に本当に必要な空気感、間の表現を決定づける音場が生成されません。
そもそも、国産の中級~普及価格帯に当たるオーディオ機器の多くでは、フルコンポサイズのピュアオーディオ機器であっても、私が推薦してきた欧州製の薄型軽量なオーディオ機器に比べ、やはり即物的な直接音や上下のレンジ感やエネルギー感はあるものの、間接音の空気感や響きのニュアンスを傾向的に苦手としています。ところが、今度のPMA-CX3/DCD-CX3はこれがまるで違う。旧来の押し出し重視のデノンサウンドから180度方向転換したような、ヨーロッパ製品を彷彿とさせる音場型のサウンドなのです。
この音の出方はデノンのフルサイズコンポーネントよりも、むしろ同社が代理店を務めるイギリスのARCAM(アーカム)に近い表現です。更に音質的にはPMA-CX3/DCD-CX3の方がARCAM製品に比べてよりハイエンドテイストな上質感のある音色で、筐体の剛性や素材の豪華さが、そのまま音色に現れているイメージです。
DENON PMA-CX3/DCD-CX3/SC-CX303 の音質評価
透明感が高く奇麗な音色。木材と金属とコンクリートが調和した、残響が長く響きの良いモダンデザインの小ホールでのリサイタルを彷彿とさせる、箱庭的で上品な響き。分解能も高く小音量での定位も優秀。音像のサーフェスが磨かれて奇麗、小さく定位したピアノの一音々々、右手だけでなく左手の音階までも思わず目で追いかけてしまいます。ただ、その奇麗さが若干人工的と云いますか、中高域のキュアキュアした艶やかさは他のモデルにも共通するDENONのテイストで、録音によって弦楽器の金属弦の切れ味が鋭くなったり、ピアノの右手方向が頭の中でカンカン響く事があり、好き嫌いが分かれる部分かも知れません。それ以外に音色に変な癖はなく素直で薄味。音源によってはもっと密度感や彫りの深さが欲しいと感じることがあるかも知れません。音楽性は意外にもそこそこ備わっています。
DENONのアンプは伝統的に低域~中低域の押し出しが強いと言われていますが、同社の他のフルコンポサイズのピュアオーディオアンプとの比較ではむしろ音が軽くて弱いくらいでしょう。結果的に大音量や低音好きな人にはスカスカに感じられる事もあるかもですが、量的にはこれくらいの方が個人的には好きです。ピアノの左手方向のピッチも良く見えるし、低音弦の残響感も豊かで特に問題無いと思いますし、他社のミニコンポやコンパクトオーディオと比べたら十分なボリュームがあります。まぁ大きな部屋で大音量で音出しをするとスカスカになりそうですが、これは書斎やベッドサイドなどで箱庭的に慣らしてバランスが取れる音ですから、使い方を誤らなければ良いだけのことです。音量を上げて迫力のある音を求めるならフルサイズのオーディオ機器、割とニアフィールドか日本家屋サイズの室内で、小音量で音楽に浸りたい、ホールトーンのデリケートなニュアンスに酔いしれたいならPMA-CX3/DCD-CX3/SC-CX303が実用上ベターな選択になるはずです。
加えてPMA-CX3はしっかりFM/AMチューナーを内蔵していたり、iPodの接続やフォノボード内蔵で古いアナログレコードプレーヤーのMM/MC接続にも対応していて、今でもレコードプレーヤーをきちんと生産し続けているデノンならではのこだわりを感じさせます。こういった細かい部分も含めて、全てをバラで揃えなくてはいけない単品コンポに比べ、使い勝手の面で大きなアドバンテージがあるのも見逃せません。
なんというか、デノン器用すぎ。。。私はデノンというメーカーのハイエンドモデルの音質は、良くも悪くも優秀な日本人、折り目正しいサラリーマンを感じさせる、都会的で真面目でインテリで、ともすると鬱っぽいサウンドを想起するのですが、こういった音楽ファン向けコンセプトの企画を通して製品化したり、そもそもデノンサウンドとはまるで似つかない、工業製品というよりもむしろ楽器に近い音を出すDALI(ダリ)のスピーカー、キンバーケーブル、アーカム製品の輸入代理店を手掛けたりなど、意外と商売上手というか、頭の柔らかい人達がいるブランドなのかもですね♪
DENON製品は市場で売れるが故、メジャーで身近であるが故に世間的な評価が辛口になりがちであり、またこのモデルについては低域の押し出しやエネルギー感などに魅力を感じる旧来のDENONファンにも白い目で見られがちな部分があると思います。
また、想定される使用環境やコンセプトの違う不適切な相手と比較されて貶されたりと、物量×価格でコストパフォーマンスを問われる低価格なピュアオーディオ機器としては、なかなか評価の難しい立場にあるのかも知れませんが、音質、品質的にはDENONじゃなければみんな諸手を挙げて感動するレベルにあると思います。少なくとも実売5~20万前後クラスの、一体型システム或いはコンパクトサイズコンポーネントで、音質的にそこそこ張り合えるのはAura noteくらいじゃないかなぁと。。。少なくとも今回比較したSONY、ヤマハ、オンキヨー、オーディオプロ、タンジェント、アーカム、オーディオアナログの製品には、音質面で軽く上回っているように思います。とはいえ、音楽性、音楽表現力についてはココで挙げたライバルの中にもより魅力的なモデルがありますので、それについてはまたの機会に♪
コメント一覧 (2件)
はじめてお邪魔します。
ぜひ、教えていただきたいのですが、CX3シリーズとA-1VL/C-1VLを比べた時のインプレッションはどうでしょうか?
現在、北欧に住んでいますが、こちらでは物価が高く、オーディオ機器も日本で買ったほうが安いので、今度の短期出張時に視聴・購入を短期決戦でしようと考えています。できれば比較しての感想等教えて頂けたらと思い書き込ませて頂きました。
ちなみに、スピーカーだけはこちらで購入の予定です。
masaさんはじめまして。
直接比較をしたことがありませんので何とも言えないところですが、この二つは設計コンセプトが明確に異なりますので、どんなスピーカーと組み合わせるか、そしてどんな室内環境に置かれるのか?で評価が変わってしまうと思います。
単純にピュアオーディオ機器としてはオンキヨーのA-1VL/C-1VLに軍配が上がると思いますが、ライフスタイルを絡めて考えた場合、デノンのCXシリーズの方が実用上向いていることも多々あるはずです。私はA-1VLを5.5畳の書斎で箱庭的に使っていますが、これは明らかに本来のアンプの能力を活かせる状況になく、このような使い方でしたら、皆さんにはCXシリーズの方をお薦めしたいです。(とはいっても、買い換えする気はありませんけど。。。)
http://blog.so-net.ne.jp/watt3pappy2/2007-02-12
ハンコックさんの記事をリンクしておきますので、是非こちらも参考になさってくださいませ♪